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ケンジ

『りこはさ、ケンジの事、どう思う?実はね、ケンジはりこの事。。。』
言いかけたヒロミに私は、『ああ~、そんな事はケンジの口から聞いた訳じゃないし、余計なお世話は焼かないで。それに、ケンジと私はただの漁仲間。ただのパートナー。それだけ。はい、この話は終わり!』と、畳み掛けるように言い、無理矢理に会話を遮った。

ケンジと私は同じ船に乗る漁師。
このカツオ漁は、二人一組で行われる。
一人が投げた竿の先には5つの仕掛け針が付いており、パートナーが海へ潜り、仕掛けの側に居るカツオを針に引っかかるように追い込み、竿を操る方は勘だけを頼りにカツオの引きを合わせる。
一歩間違えると、海に入っている方は、長さ10センチ程もある大きな針に引っかかり、大けがをする事もあるような危険な漁だ。
漁師のくせに泳げないケンジとパートナーを組むはめになった私は、必然的に海に潜る「追い込み」の役目をやらざるを得ない。始めは(とんだ貧乏クジを引いちゃったな、、)と、ガッカリしていたのだが、意外な事にケンジは「合わせ」の才能に秀でていた。なぜか漁に関しての二人の息はぴたりとはまり、この辺りの漁港で私達程の漁獲量を誇る船は他に無い。
確かに、二人は仕事としてのチームとしては右に出る者は居ないだろう。
他の船からも、羨望や嫉妬の的である。
そして、私個人に当てられる嫉妬はもう一つある。
他の船のほとんどの女どもは、このケンジに夢中なのだ。
確かに、鍛えられた筋肉質の体、私より頭一つ分は大きい背丈、低い声、周囲に対する気配り、優しさ、仕事に対する集中力、どれをとっても女には理想的なタイプなのだ。
普通なら、私も例に漏れず、ケンジに惚れるところであるんだろうが、
そんなケンジを毎日見ているのも関わらず、私がケンジを男性として見ていないのには一つ理由がある。
他の船の男に恋をしているからだ。
しかしながら、この恋は成就するはずもない。
なぜなら彼は同性にしか興味が無いから。
もちろん彼のパートナーも同性。異性同士であれば入籍はとうに済ませてあるだろうという程にお似合いな二人だ。法律のみが彼らを邪魔する事ができるのだ。
私なんぞ、入り込む余地などない。
解っていながらも、恋い焦がれている自分がバカに思えてくるのだが、恋は理屈ではどうにもならないもの、手に入らないとなればなるほど、憧れは募るばかりなのである。

そんな私を見かねた友達が、ここのところ、ケンジと私をどうにかしてくっつけようとしている。全くもって大きなお世話の大迷惑だ。
ケンジが以前から、私に対して好意を寄せている事は薄々気がついてはいたが、そんな感情など漁をする上で邪魔にこそなれ、得な事は何一つ無く、面倒臭いだけである。
恋愛感情を持った者同士が同じ船で漁などできるか。
あの軟弱なケンジの事、『りこちゃん、潜ってて寒くない?』とか、『針に引っかかると行けないから、遠くで見てていいよ。』なんて事になって、漁などできたもんじゃない。

そんなこんなで、これまで私はケンジの気持ちなど気づかないフリをしていたのだが、あのアホ、友人達に想いを打ち明けたらしく、それを聞いた友人達もお祭り騒ぎでふたりの恋の成就の作戦をあれこれ画策しているらしい。。。。中学生か。。。

この辺りの漁師は休みの日になると、いくら天気が良くても漁の仕事、仕掛けの仕込みなど、一切の仕事から離れる事が暗黙の決まりとなっている。公平さを保つ人付き合いの知恵であろうか。私も、久しぶりの休日を山で一人で過ごすべく、ハイキングの準備を家でしていた。
すると、、玄関先でヒロミの能天気なはしゃぎ気味の声が聞こえた。
玄関を開けるとヒロミの後ろに、ヒロミの恋人とケンジが立っていた。
『りこ、これから山に行くんでしょ?私達も連れて行ってくれない?』と。。。
見え透いたダブルデートの設定に嫌気がさしながらも、朝早く起きてはしゃいでいるみんなの事を考えると、断る訳にもいかず、同行する事を承諾した私は、今日予定していた山を急遽変更して、勾配のなだらかな山を目的地とする事にした。
特に山に登る事が好きでなくても、吊り橋や滝があり、観光として楽しめると思ったからだ。
ボンネットバスに乗り1時間程で到着する山の麓の村には、一軒だけ店があり店の前がバス亭になっている。ボンカレーやオロナミンCの広告が貼られた掘建て小屋のような店の軒先にはアイスの冷蔵庫やら駄菓子、お団子の入ったガラスケース、足元には祭りの夜店などで見かけるプラスチックの刀などが並べられている。
こんなおもちゃなど、老人しか住んでいないこの村で誰が買うんだろうか?と不思議に思いつつも「本日再入荷!早いモン勝ち!」と書いてあるおもちゃの段ボールに購買意欲を掻き立てられる。
欲に負けなかった私は、その店でチョコレートだけを買い、みんなと一緒にハイキングコースに向かった。
ほんの20分程で吊り橋に到着した。
ヒロミ達はさも大発見をしたかのように、嬉しそうに吊り橋に駆け寄って行き、
下を眺めては『うわー!たっけぇ~!』などと言って、吊り橋をゆすったりして悪乗りを見せていた。
ふとケンジを見ると、それまでみんなと和気あいあいと楽しそうにはしゃいでいたはずであったのに、顔面蒼白で私の後ろに立ち尽くしている。
かすかに唇を震わせながら、『これは危ないでしょ、、これは危ないでしょ、、』とぶつぶつ念仏のように唱えている。しまいには、『ヘルメット、、ヘルメットが無いと、、』と、白目を剥いているのを見て驚いた私は、ケンジの肩を揺さぶり『大丈夫か??』と問うてみた。高所恐怖症だそうである。
(だったら行き先に「吊り橋」ってキーワードをちらつかせたんだから、先にそれ言えよ、、)と呆れつつ、ヒロミ達を先に行かせ、ケンジの落ち着くのを待っていた私は、(やはりこの先はケンジには無理だろう、、)と判断し、ひとまずバス亭の店に引き返す事にした。

林を進むにつれてやっと落ち着きを取り戻したケンジは『ごめんね、ごめんね、りこちゃん、怒ってる?』と、ひたすら謝ってきていたが、別に怒ってもいない私は聞き流した。
やはり20分程で、バス亭の店に着くと、先ほどは全く気がつかなかったのだが、新しい自販機が置いてあるのが目に入った。

カップヌードルの自販機のようだが、少し様子が違う。
よく側に寄って見ると、赤、青、黄色、白、4色の現場用ヘルメットが入っていた。
ヘルメットの自販機とは、聞いた事が無いな、、と思っていると、反応の薄い私にずっと謝り続けて泣きべそをかきそうになっていたケンジが突然、『りこちゃん!!ヘルメット!ヘルメットあったよ!』と叫んだ。
ヘルメットは確かにあったけどさ、、自販機だよ、、しかも、3000円って、、安いの?高いの??となんだか腑に落ちないような気分でケンジを放って置いたのだが、ケンジは『オレね、ヘルメットがあれば、あの吊り橋渡れるよ!りこちゃん、吊り橋渡りたいんでしょ?オレ、これ買うよ!!』と、もう、ヘルメットを買える事に狂喜乱舞の有様だ。。
止める間もなく自販機に1万円を入れたケンジは、大はしゃぎで赤いヘルメットのボタンを押した。
ゴトッ。
間の抜けた音を立てて出て来たヘルメットは明らかに中古、、である、。
ヒモを止める金具部分が錆びており、使えない事もないが、中は垢染みていて気色が悪い。塗装も若干はげている。そんな事にはおかまいもなく嬉しそうにヘルメットを被ったケンジは、『さあ戻ろう!』と嬉しそうに私をうながした。
しかたなく吊り橋に戻ろうと、来た道を進んでいた時、ふと背中に妙な視線を感じたので、はっと振り返ってみると、自販機の横で店の婆さんがうすら笑いを浮かべて立っていた。
そして、目の錯覚ではない、取り出し口の所から、白いろうそくで作った枝のような手が見えたのだ。

ケンジは、、、赤いヘルメットを被って、口笛を吹きながら嬉しそうに前を歩いている。
私達は吊り橋へ向かった。




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こ、これ続きは当然あるよね?早く読みたい!
結構長文の上に、この終わり方はTV的で妙に気になります。。。でも、「いえ、これは小説的な終わり方なので、続きはありません・・」と冷たく言い放たれそうだ。。。
それにしてもいつもながらパーソナリティの設定がいいねぇ、感心します。

私も思わず、背中がぞくっとしてしまいました。。
続きがとても気になります。(^-^)

長い…長すぎて、読みきれねぇ~。

ふふふ、、、すでに私の言動パターンを読んでいらっしゃる。。
『小説的な終わり方なので、続きはありません』冷たい訳ではありませんが、脈絡のあるようなないような不思議な感覚であの場面で美しく着地したように考えていたので、続きは考えていません。
あとは、想像におまかせしますが、気が向いたら書きます。。>ネットくん

風邪の具合はいかがですか?
続きは~、今のところここで完結しております~。
ふふ。>姉goさん

このくらい読めんでこの先どうやって生きていくんや?!
根性見せい。>あきラー

元々根性なんて持ち合わせないんやからさぁ~、もうちょっと短編でたのんますよ。

>気が向いたら書きます。。

ヒロミの恋人だけ、ネーミングされていないので、次回はこの2名の行方から話を持っていき、そしてその後の回で、2つの話を合体させる。
。。。って、勝手にこういう事を書くと、りこさんは絶対にそう言うことをしない。吊り橋を渡ったら河童の世界だったとか言うのでもいいので、次回作を期待(^-^)

小説なの?
夢かと思ってた。
続きが読みたい!

やっぱり物書きの血が騒いでいるんじゃない~ (^^)
本出しちゃったらどうです

私には小説書く才能はないので...
りこさんがうらやましい

俳句でも詠めるようにしとくわ。。。
っていうか、騙されたと思って読んでくれよ、おもろいから。>あきラー

はは。天の邪鬼だと思われている~。
もしかしてこないだ血液型を聞いたのは、、>ネットくん

夢だよ、夢を元にして脚色を加えただけ。
シラフでこんな事を発想できたら、かなりの狂人じゃない?>兄貴

夢ですから。夢をそれっぽく仕立ててあるんです。
私の夢日記はお勧めですよ。
夢日記のバックナンバーを気が向いたら読んでみて下さい。
ヨン様の夢がお勧めです。>アコボーさん

>もしかしてこないだ血液型を聞いたのは、、

・・・(゜o゜;;ギク!
私はC型で、りこさんは確か歯形でしたよね?ww
でも実際と文章は、結構人格違う"イメージ"がありますよね。

狂人だと思ってた。

ラブロマンスかと思ったら、稲川淳二だった!

仕事中に全ての「夢日記」バックナンバーを読んでいたところ、同僚の女子社員から「何、にやけているの?」と指摘を受けてしまいました。「別にいかがわしいものを見ている訳じゃないよ…」と弁明したのですが、疑いの視線を向けられております。どうしてくれるんですか?
でも、とっても面白かったので会社での立場は気にしないことにします。いや、元々そんなものは無いのですが。
ぽおるまっかあとにい。

哀しいかな長年この商売をやっていると、イメージは大切だという意識がはたらくようです。。と、言いますか、爽やかさが売りですから。>ネットくん

あ、やっぱり?>兄貴

今度、稲川淳二の全然似てない物まねを披露します。>よーままちゃん

あの時のぽおるには、ほんとに閉口しました。
ぽおるの尻拭いはもうこりごりです。
女子社員にはむしろ、『いかがわしいものに興味を示して何が悪い!見るっしょ~、普通。』と強気に出れば、疑いの視線が熱い視線に変わるかもしれませんよ。>Osamuさん
プロフィール

りこ

  • Author:りこ
  • 12月24日生 山羊座のO型 高知県四万十市出身
    趣味の登山の話や日々考えた事やあった事なんかを、等身大で書き留めていく感じでやっていきたいと思います。
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