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チェリーの記憶

小学2年生くらいの頃、市の展覧会に出品する為の詩を、授業で書く事になった私は、
「お母さん」というお題を選んで書く事にした。

私の母は、明るくて芯の強い人であったが、放蕩親父に捕まったのが運の尽き、
若いうちから貧しく、苦労に満ちた生活を強いられていた。
そんな母にとって、私達兄妹は唯一の宝物であり、生きる希望だったそうだ。
毎日酔って帰っては、母に暴力を振るう父も哀れな人であったが、それにじっと耐え、
決して私達に八つ当たりなどせず、じっと独り我慢して、私達を守り育ててくれた母は、今でも尊敬に値する素晴らしい人だと思う。

そんな母なものでしたから、詩を書くにあたって、その母に対する自分の愛情を表現するのはとても簡単な事であった。日常の母との生活、それ自体が愛情を注がれている子供の詩として成り立つからである。

子供だった私は、何の飾り気も無い素直な言葉でつらつらと詩を書いていった。
今思えばそれは詩ではなく、作文のような物に近かったかもしれない。
私は生活にまみれた母の匂いが大好きだった。
詩の最後にその事を書き連ねようとして、はたと鉛筆が止まった。

この匂いを何と書けばいいのだろう。。。
お母さんの匂い=優しい匂い。。。
だけど、ただ『お母さんはいい匂い』と書いたのでは芸が無い、と幼い私は考えたのである。(実にイヤな子供だ。芸が無いなんてな事を考えるなどと、こまっしゃくれもいいとこだ。)
そこで私は、優しい=さくらんぼとイメージした。
「さくらんぼ」「チェリー」という言葉の響きはなんとなく優しくて、果実それ自体も丸みを帯びて可愛らしく、母のイメージにピッタリなような気がしたからである。

「お母さんはチェリーの匂い」

詩の最後を、その言葉で締めくくった。
しかし、私は、それを提出してから後、ひどい罪悪感に苛まれたのである。

(ウソを書いてしまった。。。)という理由で。

もちろん優しい母とは言え、人体からチェリーの香りなどするはずもなく、
当時の私は、「比喩表現」なんて気の効いた手法があるなんて、露ほども知らず、
自分の使った比喩表現を「嘘」と思ってしまったのである。

それから毎日、詩の話題になると罪悪感が首をもたげ、いつ先生に『りっちゃんはウソを書きましたね!』と叱られるのではないかとびくびくしながら過ごしていた。
そして、市の展覧会が終わり、ほっとしていたところ、あろう事か、県展に出展という事態が起きてしまった。。
市の展覧会レベルではたいして目立つ事も無いが、県展にまで出展するとなると、
これはみんなの注目を集めざるを得ない。。
私はウソを書いてまでして栄誉など欲しくはなく、ただただ、ウソ付きの自分の醜い姿が露呈してしまう事が恐ろしかった。
実際、そんな事になってからは、クラスメイトの中に『チェリーの匂いらあするわけないやん!』と、言う子も居たりした。(強気の私は表面上は相手をねじ伏せたが、内心は早くこの事を忘れてしまいたかった。)
そんなこんなで、悪夢のような県展も終わり、やっと手元に戻った自分の作品をぶら下げ、(こんなウソは二度と書かないようにしよう、、)と、しょんぼりしながら家に帰った。

夜、母にそれを見せ、『チェリーの匂いらあせんけどねー。』と、先手を打って母に正直に話したところ、母はただ「上手やね。」と、嬉しそうに笑っていた。

梅雨に入るこの季節、果物屋の店先でさくらんぼを目にすると、
この思い出が甘酸っぱく胸に満ちるのです。

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いや~、いい話だよ。
純なエピソードだね~
泣けた!

また何かつっこみを入れて書こうと思いつつ読み始めたのですが、今回は止めておきます。。
音楽にしろ、香りにしろ、味覚にしろ、頭にくっついている器官の感覚はふとすると昔を思い出させてくれますね。
チェリーですかぁ~いいですねぇ。そう言えば、姉goがチェリーロールを食べたと言っていたなぁ。

私も大学卒業した年に親孝行をする間もなく、癌で母を亡くしました。
お母さんって、やっぱり私も1番尊敬する女性だし、母のように可愛い人になりたいって(可愛いって年齢じゃないよね)今でも思ってます。
リコの日記読んでそんな事思い出しました。

泣くような話でもないはずなんですが、
自分も書きながらうるうるしていました。。
ちょうど、これを書いている途中に実家から電話が!!
びっくりです。>あらな~いさん

そうですね、匂いとかは特に記憶と連動しますね。
この思い出とは関係ないのですが、さくらんぼ物は大好きです。いいな~、チェリーロール。>ネットくん

お互い尊敬できる母親を持って幸せだね。
亡くなってしまっていたとは知らなかった。
そうか、、。だけど、レイちゃんの中にちゃんとお母さんが転生してるんじゃないかと、私は思います。
ところで、可愛くなるのに年齢は関係ない!(自分にも言い聞かせてみる。)どんどん可愛くなってね。>laykaちゃん

母親って偉大なんだよな・・・
中にはそうでも無い人もいるけど
「偉大」だと思える母親を持てて幸せ。

キュンってなった。

きーよんもきっとそんな母さんになれそう。
調子はいいかい?>きーよん

私に限らずみんな、子供時代の話はキュンとする事がいっぱいだよね。
>兄貴
プロフィール

りこ

  • Author:りこ
  • 12月24日生 山羊座のO型 高知県四万十市出身
    趣味の登山の話や日々考えた事やあった事なんかを、等身大で書き留めていく感じでやっていきたいと思います。
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